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思想家T氏が語る
(選択と決断と後悔について)
1998.5.18
—— 先生は、人間は選択と決断を避ける動物だと考えているそうですね。
 人間は、ある種、自分で決断することを避ける傾向がある。自分で決めるのは怖い。だから、人に決めてもらう方がラクだし、あるいは、選択の余地がない方がいい。そう思っている人は多いはずだ。こういう言い方をすると、みんな反対するだろうが、そう言うあなたも多分、心の中にそういう部分がある。

—— そうでしょうか。例を挙げていただけると助かるのですが……
 例えば、推薦入学なんていうのはまさしくその心理だ。推薦入学に甘んじると、自分が最大限力を発揮した場合より悪い進学をすることになるだろう。これは少し問題がちがわないか? いやいやそうではない。

—— でも、みんなが推薦入学してるわけではないですよね?
 サラリーマンとして生きるのが心地よいと考えるのもそうなのだ。急に転勤させられるのは誰だってイヤだが、それでも「断る余地がないと」いうのはむしろあきらめがついて心地よい。一方、フリーで活動して、自分の置く拠点を移転させるべきかどうかの判断には、困難が伴う。

 なぜそうなるかというと、人に強制的にそうさせられたり、選択の余地が与えられなかった場合には、あとで後悔することがないからだ。「あそこでなんでそうしたのだろう」「あのとき別の選択をしていらならば」、そういう後悔の念にかられることがない。「あのときはそうする以外になかったのだ」ということになれば、心もだいぶ軽かろう。人は、結局のところ、後悔することが怖いのだ。

—— なるほど、分かるような気がします。あのときこうしていれば良かった、と考えるのはつらいですからね。
 相手をふるよりも、失恋した方がラクだという人もいるかもしれない。それは、失恋には決断が伴わないからだ。決断しないことはラクだ。

 しかし、それではいけない。そういう日本人の一面が、「自己責任」という当たり前のことが徹底されない、なれ合いの社会をきずきあげているのだ。運命とは与えられる物ではなく、自分で切り開く物なのである。
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